マイルスがソーサラーになった

SORCERER - MILES DAVIS MUSIC
タイトル「SORCERER」ソーサラーは魔法使い、魔術師という意味です。この題のとおり、マイルスがソーサラーとなった記念すべきアルバムが本作なのです。

『SORCERER』が録音された1960年代後半は、時代が大きく転換していた時期でもあります。ビートルズが世界的なアイドルとして大活躍し、1966年には哲学者のミシェル・フーコーが『言葉と物』を発表し、1967年にコルトレーンが急死しました。フリー・ジャズの流行も一段落したジャズというジャンルは音楽シーンにおける立ち位置を変化させていました。要するにポップ・ロックミュージックは巨大な存在となり、ジャズはマイナーな存在へとなりつつあったといえます。

そんな時代、マイルスはどうなっていたのかという答えがこのアルバムなのです。それまで、自らトランペットを吹くことを最も大きな表現手法としていたマイルスは、この頃から、自分を異次元の存在へと進化させていきます。

『SORCERER』ではマイルスの作曲はひとつもありません。2曲目などはマイルスを除いたメンバーによって演奏されています。最も多い4曲をウエイン・ショーターが作曲しているため、「このアルバムは事実上ウエイン・ショーターのリーダーアルバム」などという声が聞かれます。

しかしそれは全くのゴタクに過ぎず、マイルスは“SORCERER”となって音楽のすべてをマイルス・デイビス ミュージックとして創作しているのです。ジャケットからすべての曲にいたるまでどこを聴いてもマイルスです。マイルスがトランペットを吹いていようがいまいが、マイルス・デイビス ミュージックになっています。このアルバムはそこを聴いて、マイルスのものすごい変化を感じることが醍醐味といえます。

異次元の存在となったマイルス。これ以降はますますSORCERERとなって神々さえ呼び出しているのではないかという活躍を展開します。『イン・ア・サイレント・ウエイ』『ビッチーズ・ブリュー』『ゲット・アップ・ウイズ・イット』などなどとてつもない音楽を産み出して行く片鱗がこのアルバムにあるのです。ちなみに次作、ジャケット写真が本作と対になった『ネフェルティティ』も最高です。

ライナーノーツを始め多くの評論家が怒りを露にしているように、7曲目のヴォーカル曲「ナッシング・ライク・ユー」は1962年の録音であり、まったく不要な曲です。その上アルバムの音楽性からいってもあるのがおかしい。ない方が自然です。ウエイン・ショーターが入っているからといって何の関係もありません。デジタル化して取り込む場合には削除もしくは別にしましょう。

  1. PRINCE OF DARKNESS(W.Shorter)6:26
  2. PEE WEE(T.Williams)4:47
  3. MASQUALERO(W.Shorter) 8:52
  4. THE SORCERER(H.Hancock) 5:09
  5. LIMBO(W.Shorter)7:14
  6. VONETTA(W.Shorter)5:34
  7. NOTHING LIKE YOU(F.Landesman-B.Dorough)1:59

レーベル:COLUMBIA
録音:1967年5月16日(5,6)、1967年5月17日(3,4)、1967年5月24日(1,2)、1962年8月21日(7)、コロンビアスタジオ、ニューヨーク 1-6

  • Miles Davis:trumpet
  • Wayne Shorter:tenor sax
  • Herbie Hancock:piano
  • Ron Carter:bass
  • Tony Williams:drums

7

  • Bob Dorough:vocal
  • Miles Davis:trumpet
  • Wayne Shorter:tenor sax
  • Frank Rehak:trombone
  • Paul Chambers:bass
  • Jimmy Cobb:drums
  • Willie Bobo:bongos
  • Gil Evans:arrange