鬼気迫る極限の魔力をもった特異な作品。強烈な大地のリズムに引き込まれる
マイルス長期休養1年半前、1974年3月、カーネギーホールでのライブ。「ヨーロッパ的な感受性の消滅」、「ディープなアフリカのDNA」マイルスがこの時期を振り返ったセリフを思い出すかのような、太く、重い大地のファンクリズムがアルバムを支配しています。マイルスのこれまでのアルバムの中でも特異な雰囲気をたたえ、極限状態とでもいいたくなる、鬼気迫る1枚です。
マイルスはトランペットとオルガンを演奏し、アル・フォスター、マイケル・ヘンダーソン、レジー・ルーカス、エム・トゥーメという強烈なリズムセクションが完璧にマイルス・デイビスミュージックの世界を表現します。マイルスが吹こうが吹くまいが、メンバー全員(サックスのエイゾー・ローレンスはどうもいまいち)がマイルスの音楽を表現し、アルバムのすべてがマイルスになっています。
ピアノを外してギターをピート・コージー、レジー・ルーカス、ドミニク・ガーモントの3本とした編成がすばらしく、ここにピアノの入る余地はないだろうと思われます。
太く、重い大地のファンクリズムと暗闇に引きずり込まれるかのような旋律、これらがもたらすダークで病的な雰囲気はこれまでのアルバムとは異質なものです。これまで常人では考えられない集中力を持って、創造的かつ革新的な音楽を長年に渡って形にしてきたマイルスは音楽的にも、肉体的、精神的にも極限状態になっていたのではないでしょうか。
録音は1974年3月、マイルスが長期休養に入る1年半前ということになります。このライブを聴く度に、この頃「もうダメだ」という状態に達し、「もう少しがんばろう」と続けて、「やはりダメだ」と1975年に長期休養に入ったのではないかと勝手に想像してしまいます。
本作と復帰後のスーパーライブ『WE WANT MILES』を聴き比べればマイルスの状態は一聴瞭然。目の覚めるような右ストレートとでもいいたくなる『WE WANT MILES』と、大地の奥底に引きずり込まれそうな『DARK MAGUS』といった様相です。
結論としては『DARK MAGUS』はまたしても傑作だということです。運転中とか歩きながら聴くと「引きずり込まれた」状態となった場合に危険ですから、私は夜中にヘッドホンを使って聴きます。「マイルスのアルバムはほとんど全部そうだろ!」といった声が聞こえてきそうですが(笑)、このアルバムは改めてそう言ってみたくなる魔力を持っています。
1 DARK MAGUS:“Moja”and“Will” 50:12
- Moja (Part 1) 12:28
- Moja (Part 2) 12:40
- Will (Part 3) 14:20
- Will (Part 2) 10:44
2 DARK MAGUS:“Tatu”and“Nne” 50:49
- Tatu (Part1) 18:47
- Tatu (Part 2)(“Calypso Frelimo”) 6:29
- Nne (Part 3) 15:19
- Nne (Part 2) 10:11
All composition by Miles Davis
レーベル:COLUMBIA
録音:1974年3月30日、ニューヨーク、カーネギーホール(ライブ)
- Miles Davis : trumpet,organ
- Dave Liebman : flute-2,soprano sax-1,tenor sax
- Azar Laerence : tenor sax-3
- Reggie Lucas : guitar
- Pete Cosey : guitar
- Dominique Gaumont : guitar
- Micheal Henderson : electric bass
- Al Foster : drums
- Mtume : percussion