情景を超えて情念をも描写
情景を超えて情念をも描写
25歳、新進映画監督ルイ・マルは、新作『死刑台のエレベーター』を撮るにあたって、兼ねてから大ファンだったマイルスに音楽監督を依頼します。無名のルイ・マルがフランス滞在中のマイルスに直談判できたのは、マイルスの恋人であったジュリエット・グレコの仲立ちがあったからでした。
例によってこのアルバムにもいくつかのバージョンがあり、おすすめはオリジナルの10曲版+数曲ではなく26曲入りの完全版。実際に映画に使用された10曲に加えて、映画では使われずにオリジナルテープに入っていた16曲が追加収録されています。
基本的に編集ものは苦手ですが、本作の場合は別。レコード会社の担当者が意図したものかはわかりませんが、素晴らしい結果をもたらしてくれます。
劇中に聴くマイルスの音は明らかに加工されています。追加収録のおかげで、エコーが強くかかった劇中の音と、生のままの音を聴き比べることができます。聴き比べてみると、断然効果が加えられた本番用の方がよいのです。情景描写を超えて情念をも描き出す(あくまでクールに)マイルスのトランペットのすごさがより際立つのが本番用です。
これを聴いて「やっぱりジャズなんだから、加工されていない生の方がいいに決まってるよ」などという“ジャズ通”が周りいたら、今後、音楽に関してその方の意見は聞き流しましょう。「マイルスのオリジナリティに触れる」という最上の感動を知る由も無い人です。こういうセンスのなさがジャズを衰退させた一因だと思います。
歌舞伎役者の中村吉右衛門さんがこう言っていました。「死刑台のエレベーターという映画で、マイルス・デイビスという人がトランペットでした。(マイルスには)詳しくないのですが、その音楽が激しく胸に飛び込んできました。ヌーベルヴァーグの時代でした。いまもその気分で舞台に立ちたいと思っています。いまやオールドヴァーグですが(笑)」
こういう感覚こそが大切です。このコメントには音楽が鳴っているじゃないですか、マイルスのオリジナリティが。(前出の)“ジャズ通”なんて、お呼びじゃないのです。
All Compositions by Miles Davis
- GENERIQUE(テーマ) 2:48
- L’ASSASSINAT DE CARALA(カララの殺人)2:10
- SURL’AUTOROUTE(ドライヴウェイのスリル)2:18
- JULIEN DANS L’ASCENSEUR(エレベーターの中のジュリアン)2:10
- FLORENCE SUR LES CHAMPS-ELYSEES(シャンゼリゼを歩むフロランス)2:51
- DINER AU MOTEL(モーテルのディナー)3:57
- EVASION DE JULIEN(ジュリアンの脱出)0:53
- VISITE DU VIGILE(夜警の見回り)2:03
- AU BAR DU PETIT BAC(プティバックの酒場にて)2:53
- CHEZ LE PHOTOGRAPHE DU MOTEL(モーテルの写真)3:54
以上、劇中にて使用された曲。
以下、劇中には使用されなかった生の曲。
- NUIT SUR LES CHAMPS-ELYSÉES(TAKE1)(シャンゼリゼの夜 TAKE1)2:26
- NUIT SUR LES CHAMPS-ELYSÉES(TAKE2)(シャンゼリゼの夜 TAKE2)5:22
- NUIT SUR LES CHAMPS-ELYSÉES(TAKE3)(シャンゼリゼの夜 TAKE3)2:52
- NUIT SUR LES CHAMPS-ELYSÉES/FLORENCE SUR LES CHAMPS-ELYSÉES(TAKE4)(シャンゼリゼの夜/シャンゼリゼを歩むフロランス TAKE4)3:00
- ASSASSINAT(TAKE1)/VISITE DU VIGILE(暗殺 TAKE1/夜警の見回り)2:04
- ASSASSINAT(TAKE2)/JULIEN DANS L’ASCENSEUR(暗殺 TAKE2/エレベーターの中のジュリアン)2:13
- ASSASSINAT(TAKE3)/L’ASSASSINAT DE CARALA(暗殺 TAKE3/カララの殺人)2:12
- MOTEL/DINER AU MOTEL(モーテル/モーテルのディナー)3:57
- FINAL(TAKE1)(ファイナル TAKE1)3:07
- FINAL(TAKE2)(ファイナル TAKE2)3:02
- FINAL(TAKE3)/CHEZ LE PHOTOGRAPH DU MOTEL(ファイナル TAKE3/モーテルの写真屋)4:05
- ASCENSEUR/EVASION DE JULIEN(エレベーター/ジュリアンの脱出)2:00
- LE PETIT BAL(TAKE1)(居酒屋 TAKE1)2:41
- LE PETIT BAL(TAKE2)/AU BAR DU PETIT BAC(居酒屋 TAKE2/プティバックの酒場にて)2:41
- SÉQUENCE VOITURE(TAKE1)(ドライヴウェイ TAKE1)2:58
- SÉQUENCE VOITURE(TAKE2)/(ドライヴウェイ TAKE2/ドライヴウェイのスリル)2:58
レーベル:Fontana
録音:1957年12月4日、5日、パリ
- Miles Davis:trumpet
- Barny Wilen:tenor sax
- René Urteger:piano
- Pierre Michelot:bass
- Kenny Clarke:drums