新しい方向、そして別れ
『サムシン・エルス』の「枯葉」ほどではありませんが、タイトル曲「マイルストーンズ」のインパクトが強烈なアルバムです。巷の解説の定番は「マイルスがモード奏法を本格的に始めた作品云々」です。必ずといっていいほどこれを最初に書きます。はっきり言ってこの紋切り型がくどい。大事なことも伝わらない。本稿では「マイルス的にどう創造的なのか」ということのみマイルスのセリフからかいつまみましょう。
「オレがモード奏法から学んだのは、限界がないってことだ。より多くのことを音列でできるから、和声進行といったようなことに悩まなくていいんだ。モード奏法の演奏で大事なことは、旋律的にどれだけ創造的になれるかだ。〜中略〜コードに基づいてやるのとは違うから、32小節毎に、さっきやったことに変化をつけて繰り返すなんてこともなくなった。オレは、ワンパターンの演奏から遠ざかりつつあったし、もっと旋律的な方向へと向かっていた。だからモード手法に大きな可能性を感じたんだ。」
評判通りに「マイルストーンズ」が飛び抜けています。後年『マイルス・イン・ベルリン』での演奏も天才ドラマー、トニー・ウィリアムスによる卒倒しそうな傑作ですが、オリジナルともいえるこちらはどっしりとした安定感とゆったりしたリズムの「マイルストーンズ」です。この雰囲気と珍しいフェードアウトのフィニッシュがよくあいます。
2曲目の「シッズ・アヘッド」ではマイルスがピアノを弾いています。自叙伝によればレッド・ガーランドが喧嘩の末怒って帰ってしまったから、仕方なくマイルスが弾いたようです。レッド・ガーランドから離れ、ビル・エバンスという新しいピアニストと音楽をつくり始めていた当時のマイルスを象徴するような出来事です。
そのレッド・ガーランドによるトリオの演奏が5曲目「ビリー・ボーイ」。「マイルストーンズ」との対比によって、明らかにもうマイルスの方向性とは異質なものとなってしまっていることが聴き取れます。マイルス史的観点からいって評論家の受けは悪い(書き飛ばされている)でしょうが、曲と演奏自体はとてもいい。
盟友レッド・ガーランドはマイルスの音楽的な方向性と合わなくなってしまったのです。そしてこの後、ビル・エバンスという強烈な個性とともに歩み始めたマイルスは『カインド・オブ・ブルー』という傑作を生み出します。マイルスの新たなる境地と、名ピアニスト、レッド・ガーランドとの音楽的な別れという感慨に浸る『マイルストーンズ』なのです。
- DR.JEKYLL(Jackie McLean)5:51
- SID’S AHEAD(Miles Davis)13:08
- TWO BASS HIT(Lewis-Gillespie)5:13
- MILESTONES(Miles Davis)5:44
- BILLLY BOY (Unknown)7:15
- STRAIGHT,NO CHASER(Thelonious Monk)10:42
レーベル:COLUMBIA
録音:1958年4月2日(1&2)、3日(3-6)、4月22日、ニューヨーク
- Miles Davis:trumpet
- Julian “Cannonball”Adderley:alto sax
- John Coltrane:tenor sax
- Red Garland:piano
- Paul Chambers:bass
- Philly Joe Jones:drums