4部作中、一番人気
ジャズがアメリカの黒人が生み出した音楽であることは納得できます。ただ、マイルスだけは、そう簡単に“アメリカ”にできないのです。マイルスが日本贔屓であり、「ビューティフル」な国だと褒めたたえたからというわけではなく、我々日本の芸事に近いものを感じるのです。
それは何よりもマイルスの音、ステージです。アルベルト・ジャコメッティの彫刻のように音や無駄な演出を極限まで削り落とし、エンターテインメントなどというクソクラエの言葉とは無縁なところで心身を賭してアートを込めていく姿は、まるで仏師のようでも、能楽師のようでもあります。その求道者ぶりは、ひたすら過剰を追い求めるアメリカよりも我々の伝統に近いものを感じます。
本作を代表する「マイファニー・バレンタイン」はジョン・コルトレーンが入っていません。マイルスのワンホーンです。そうでなければいけないのです。コルトレーンが入ったら過剰になってしまいます。その上でマイルスは、情感を込めれば込めるほど音を削り、音の持つ自然な力を解放していきます。まさに「花は野にあるように」ではないですか。日本人のDNAがひかれないわけがないのです。
おそらく、その究極は『カインド・オブ・ブルー』だと思います。しかしこのクッキンの「マイファニー・バレンタイン」は、「花は野にあるように」をより一層聴きやすくしている点において、凄みがあると思うのです。
それにしても、コルトレーンは異質です。マイルスバンドに加入し、マイルスを“先生”と呼んで勉強に励み続けたコルトレーンは、持って生まれた才とともに急成長を遂げこの頃にはマイルスとは違うモノを発揮し始めています。その萌芽をクッキンを始めとする4部作に感じることができます。そしてそれは、60年ヨーロッパツアー後の脱退という形で表出します。
- MY FUNNY VALENTINE(Rodgers-Hart)5:58
- BLUES BY FIVE -false start(previous unissued)(Miles Favis)0:25
- BLUES BY FIVE(Miles Davis)9:52
- AIREGIN(Sonny Rollins)4:22
- TUNE UP(Miles Davis)
- WHEN LIGHTS ARE LOW(Benny Carter)13:06
レーベル:PRESTIGE
録音:1956年10月26日、ニュージャージー、ヴァン・ゲルダースタジオ
- Miles Davis:trumpet
- John Coltrane:tenor sax
- Red Garland:piano
- Paul Chambers:bass
- Philly Joe Jones:drums