いよいよウエイン・ショーター加入! そして初レコーディング

ESP -MILES DAVIS MUSIC

ウエイン・ショーターが加入した60年代黄金のマイルスクインテット。自分がマイルス・デイビス ミュージックとの接触を初めて体験したクインテットだけにいまでもその感動を思い出します。60年代黄金のクインテットを率いてマイルス・デイビスが創造した音楽はすべてこの「E.S.P.」から始まっているのですから。

ウエイン・ショーターのテナーサックス、ハービー・ハンコックのピアノ、ロン・カーターのベース、トニー・ウィリアムスのドラム、そしてマイルス・デイビスのトランペット。書いているだけでわくわくします。マイルス自身もウエイン・ショーターの加入を喜び、こんなコメントを残しています。ちょっと長いですが、名文なのでそのまま引用します。

「とうとう彼(ウェイン・ショーター)から電話がかかってきた時には、オレは「飛んでこい!」と叫んだ。間違いなく来るように、しかも格好もつけて来られるようにと、ファースト・クラスの切符を送ってやった。オレはそうまでしたウエインを入れたかったんだ。オレ達が一緒にやる最初の仕事は、ロサンゼルスのハリウッド・ボウルだった。ウエインが入ったら、すばらしい音楽ができるという確信があったから、オレはすごくいい気分だった。そして本当にすばらしい音楽が生まれたんだ。それもすぐにだ。」(マイルス・デイビス自叙伝Ⅱ/宝島社)

天才ドラマー、トニー・ウィリアムス、「スポンジみたいにすべてを吸収してしまう最高のピアニスト」ハービー・ハンコック、全体をまとめる「ロンがいなきゃまとまらない」ロン・カーターに加えてアート・ブレイキー&ジャズメッセンジャーズで音楽監督をしていたウエイン・ショーターが加入することで、マイルスは一段上の音楽的立場を手に入れます。60年代のアルバムが「ジャズ」という様式から「マイルス・デイビスミュージック」の色合いを濃くしていくのはそのためでしょう。

フリージャズの興隆、そして廃退。モータウンサウンドの流行、ビートルズやプレスリー、ボブ・ディランの登場によってジャズがメジャーな地位を奪われていた時代でもあります。常に時代の最先端をいっていたマイルスが聞き手の変化を敏感に察知していたことは間違いありません。「ジャズは博物館のショーケースに入れられ、勉強するものになってしまった」とマイルスは語りますが、その言葉には「自分は“ジャズ”をやりたい」という郷愁は全く感じられません。むしろ、自由な様式に移行できる時代の変化を歓迎し、マイルス自らの音楽表現をより多様に展開していこうという雰囲気を感じます。

マイルスはとてつもなく優秀かつグループとしてまとまった若手たちの才能を最大限に発揮させ、自由に音楽を創造させます。ウエインに曲の雰囲気を醸成させ、トニーに展開やリズムをつくらせ、ハービーはどんな展開にも敏感に反応させ、ロンには全体をまとめさせる。全員の創造力を開花させながら、マイルスは自分だけのマイルス・デイビス ミュージックを作り上げて行きます。

ウエイン・ ショーター加入によって成立した60年代黄金のクインテット、記念すべき初レコーディングの最初のソロはウエイン・ ショーターがとります。マイルスの期待と興奮が伝わってくるようです。作品全体には新しい可能性に満ち溢れたまるで朝日の春の海のような清々しく爽やかな雰囲気があります。そこを感じるのが本作の醍醐味です。この清々しさ、爽やかさにいよいよ始まったマイルス・ デイビス ミュージックの本格的な訪れを感じ、興奮するのです。

本作『E.S.P.』の場合、細かな曲の解説にあまり魅力は感じませんが5曲目だけ。トニーのドラムソロから始まり、聞き手は新しい展開に驚きます。そこにマイルスのミュートによるソロがきます。このミュートソロの斬新な軽やかさ。そしてウェインの雰囲気を醸成するソロがきます。この豊かさに満ちた軽やかさ。いま聞いても新しい。そしてワクワクさせられます。

 

  1. E.S.P.(W.Shorter-M.Davis)5:29
  2. EIGHTY-ONE(M.Davis-R.Carter)6:14
  3. LITTLE ONE(H.Hancock) 7:20
  4. R.J.(R.Carter) 3:56
  5. AGITATION(W.Shorter-M.Davis)7:47
  6. IRIS(M.Symes-I.Jones)8:31
  7. MOOD(R.Carer)8:48

レーベル:COLUMBIA
録音:1965年1月20日(1,4)、1965年1月21日(2,3)、1965年1月22日(5,6,7)、コロンビアスタジオ、ロサンゼルス

  •  Miles Davis:trumpet
  • Wayne Shorter:tenor sax
  • Herbie Hancock:piano
  • Ron Carter:bass
  • Tony Williams:drums