マイルスオリジナリティとの接触を体験した者にとって、この短文は他には代え難い豊かさを持っています。独創的であることのひとつの、それもとびきり上等な形であるマイルス・デイビス ミュージックへの敬意とそれに触れることができたという充実感。自分自身の人生における独創性の大切さもまたこの言葉は教えてくれます。

事は音楽だけにとどまらず、あらゆる場面において感性を広げてくれるのです。仕事でも遊びでも独創性の追求は常に重大事であって、人はみな独創的たろうと苦心しているはずです。マイルスを通じて独創的とはどういうことかを知るということは、陳腐な表現ですが人生における大きな財産なのです。

マイルス・デイビスの「独自のサウンド」は、誤解を恐れずに大別するなら2つの性質を持っているといえます。

ひとつは、彼が子供の頃に森の中で体験した音です。教会からもれてきたその歌声について、この世のものとは思えなかったいというようなことを語っています。親しいミュージシャンは、「彼はその原音を追求したが、晩年になってもいまだ表現しきれないといっていた」と述べています。

ふたつ目は、よく語られる新しいスタイルを追求する革新者としてのオリジナリティ。マイルスは常に新しい表現を追求し、自分のスタイルを進化させてきました。チャーリー・パーカー、デューク・エリントンに始まり、バッハやラヴェル、スライ&ファミリーストーンやジミ・ヘンドリックス、プリンスにいたるまで様々な音楽を包含して進化し続ける姿です。

マイルスはすごい人です。その音楽はさらにすごい。この言葉にも人の人生を変える力がある。すごすぎて、特別の才能を持った人の遠い世界のこととビビってしまいがちです。でも、それは根本的に違うのです。もし遠い世界の出来事ならば、感性などこの世に必要ありません。音楽もまた不要なものとなります。

楽器なんか扱えなくても、なんだかよくわからない「クリエイター」などという仕事をしていなくても、そんなことは関係ないのです。もしあなたがマイルス・デイビス ミュージックのオリジナリティとの接触を体験したならば、ただ黙って何も自分を表現しなかったとしても、「あなたには独自のサウンドがある」、ということなのです。間違いありません。