一人、西海岸へとドライブするマイルス
1961年の4月、マイルスは西海岸のサンフランシスコに向けて車を走らせていました。一人、ドライブしたい気分だったのです。
50年代黄金のクインテットも終わり、関節炎で身体の調子も良くないマイルス。1960年にサックスのジョン・コルトレーンが脱退、ぱっとしなかった後釜のソニー・スティットも翌年に入ってすぐ脱退し、後任としてハンク・モブレーが加入しました。で、またこのモブレーも合わない。コルトレーンを一時呼び寄せて『サムデイ・マイ・プリンス・ウイル・カム』を録音し、ニューヨークでは『ビレッジ・バンガード』に出演していました。
何となく時間があり、頭を安めながらこれからを考える時期だったようです。本人も「ギル・エバンスとは、次のレコーディングに向けて、ほんの少し取りかかりはじめていた。だがそれ以外、ほとんど何もなかった。」といっています。こういう気分、ありますよね。
このマイルスの気分が思い切りそのまま演奏になっているのが本作『In Person-Friday Night At The Blackhawk』なのです。録音技師や機材も邪魔だったようです。そんなこんなで本作では新しい音楽的な試みはありません。メンバー全員に壮絶な「直観」を求めるステージは鳴りを潜め、全編「習性」で演奏するいわゆる“ジャズ”です。聴けばすぐわかります。
しかし、日本語ライナーノーツなどで「西海岸の名門クラブで繰りひろげられた、スリリングなマイルスのライヴ・ステージ」という評を目にします。様々な読者を想定すれば仕方のないことかもしれませんが、“マイルス的”にはこれが冒頭というのはダメです。大事なことが間違って伝わってしまいます。
斬新さが鳴りを潜めた演奏であっても、そこはやはりマイルス、いわゆる“ジャズ”として高度で素晴らしい音楽です。そういう意味では『In Person-Friday Night At The Blackhawk』はマイルスのアルバム中もっとも上位に位置する作品でしょう。
ハンク・モブレーも、ウィントン・ケリー、ジミー・コブもマイルスの気分に従ったかのように定番のジャズを演奏します。「マイルス」も「ジャズ」も聴きたい、しかもリラックスして楽に聴きたいという時にちょうどいいアルバムです。
ジャケット写真、マイルスを後方から見つめているのは1960年に結婚したフランシス・テイラーです。
Vol.1
- WALKIN’(R.Carpenter) 14:21
- BYE BYE BLACKBIRD(M.Dixon-R.Henderson) 9:54
- ALL OF YOU(C.Porter) 15:35
- NO BLUES(M.Davis) 17:17
- BYE BYE(THE THEME)(M.Davis)2:41
- LOVE,I’VE FOUND YOU(C.Moore-D.Small) 1:54
Vol.2
- WELL YOU NEEDN’T(T.Monk) 8:11
- FRAN-DANCE(M.Davis) 7:37
- SO WHAT(M.Davis) 12:41
- OLEO(S.Rollins) 7:06
- IF I WERE A BELL(F.Loesser) 12:36
- NEO(M.Davis) 12:41
レーベル:COLUMBIA
録音:1961年4月22日、サンフランシスコ、ブラック・ホーク
- Miles Davis:trumpet
- Hank Mobley:tenor sax
- Wynton Kelly:piano
- Paul Chambers:bass
- Jimmy Cobb:drums