かっこよさの頂点
「俺には創造的な時期というものがある」と本人もいう60年代後半から70年代前半、マイルスは新たなリズムやフレーズを取り入れ、立て続けに極めて恐ろしい傑作を連発します。
『イン・ア・サイレント・ウエイ』、『ビッチェズ・ブリュー』、『ア・トリビュート・トゥ・ジャック・ジョンソン』、『ゲット・アップ・ウイズ・イット』、『ライブ・イビル』・・・アルバム名を並べただけでもぞくぞくします。
マイルスが気力・体力・創造力ともにかっこよさの頂点にいたそんな時期に行われたライブがこの映像です。ロックの聖地、フィルモアイーストに乗り込んで大喝采を浴びていたマイルスが、ふたたびロックの世界に乗り込みました。それがこのワイト島ロックフェスティバルです。船でしかいけないイギリスの離島になんと35万人もの人を集めました。
マイルスの演奏は、マイルスファンの神経を全開にさせる興奮のるつぼです。マイルスバンドの構成はこうです。
- トランペット:マイルス・デイビス
- ソプラノサックス、バスクラリネット:ゲイリー・バーツ
- エレクトリックピアノ、オルガン:キース・ジャレット、チック・コリア
- ベース:デイブ・ホランド
- ドラム:ジャック・デジョネット
- パーカッション:アイアート・モレイラ
これほどの豪華メンバー全員がマイルスの音、しぐさに集中し多彩な音とリズムをひとつの作品に仕上げていきます。身体の芯から揺さぶるファンキーなリズムと完璧にクールなマイルスのソロ。この時代を象徴するジョン・マクラフリンやレジー・ルーカスのギターが入っていませんが、それがまた太いリズムとマイルスのソロを強調し、身体の芯を揺さぶる感覚を与えてくれます。
このフェスティバルに参加した他のアーティストもとても豪華でした。フリー、テイスト、ジョン・セバスチャン、ドアーズ、ムーディー・ブルース、ジョニ・ミッチェル、エマーソン・レイク&パーマー、ジェスロ・タル、フー、そしてジミ・ヘンドリックスという顔ぶれです。
35万人の観客も、そして参加アーティストたちもマイルスにしびれたことでしょう。このステージを最後にベースのデイブ・ホランドは脱退し、R&Bの世界からマイケル・ヘンダーソンが加入します。これによって、マイルスはさらに新たな創作へと向かいます。