マイルス、メジャーデビュー

MILES DAVIS - ROUND-ABOUT-MIDNIGHT

「超一流の会社の代名詞だった」(マイルス)、コロンビア移籍第1弾『ROUND ABOUT MIDNIGHT』です。プレスティッジからコロンビアへと移籍していく時代のマイルスは、それまでのジャズミュージシャンを絡めとっていた制約をぶち破りながら、スター街道を突き進みます。

チャーリー・パーカーしかり、ディジー・ガレスピーしかり、初期のマイルスもそうですが、アメリカではこんな不世出の天才たちをも差別が覆っていました。だいたい、白人だからといってマイルスよりデイブ・ブルーベックがはるかに稼いでいたとか、チェット・ベイカーの評価がマイルスを上回っていたなど信じられないことです(大いに怒りたい)。ブルーベックやチェットが素晴らしいミュージシャンなのはわかりますが、マイルスより上ということはありえません。

それともうひとつ、コロンビアプロデューサーのジョージ・アバキャン、名前の出し方がダメ。ニューポートジャズフェスティバルでマイルスを聴き、すぐに契約話をしたセンスは認めますし、「オレがビッグなスターにしてやる」という意気込みもわかります。ライナーノーツを書いたところまではよいとして、「Produced by George Avakian」の文字をアルバム裏面の一番上に入れるのはやめてくれ。鬱陶しい。あの天才プロデューサー、テオ・マセロだって裏面のクレジット位置は一番下だぞ!

しかし、マイルスは類い稀な音楽性と知性をもって、阿呆どもを黙らせてくれます。ジョン・コルトレーンの加入、コロンビアへの移籍と音楽史に残る出来事が続きます。本人もこう振り返っています。「ジョン・コルトレーンが入ったオレのグループは本当にものすごかったから、オレとトレーンは、すぐに伝説的な存在になった。」「オレはトランペットを演奏し、創造性にあふれ、想像力にも富み、信じられないほど緊密で芸術的なジャズ界最高のバンドを率いていた。」

いやもう本当、その通り。演奏だけでなく言うこともかっこよくて、的を射ている。あなたはすごい。だから、マイルスは大手コロンビアにあっても自分の音楽を貫けたのでしょう。マイルスファンは、「煩いやつは用なしだ! 黙って聴け」っていってほしかったのです。それを言い始めたこの時代のマイルスは最高です。そして本作はその時を代表する名盤なのです。

名盤の誉れ高い「ROUND ABOUT MIDNIGHT」。本作で好きなのは、特に1と5曲目。全体に「スケッチズ・オブ・スペイン」「ホーギーアンドベス」などに似たトーンを持っていますから、ギル・エバンスの発想を感じます。ここでのタイトル曲「ROUND ABOUT MIDNIGHT」はこの次期の他のアルバムにも何度も収録されていますが、このアレンジがダントツです。全体的にそうですが、ソロだけでなくメインのメロディーや区切りの合奏部分が、ぐっとノレるようにされたアレンジはたまりません。

「コルトレーンは素晴らしい原石だった」というようなことを当時の批評家が言っているとおり、たしかにマイルスの後に出てくるコルトレーンのソロは、原石段階を感じさせ、マイルスに比べればまったく冴えません。しかし、ご心配なく。この後コルトレーンはマイルスの元で努力を重ね、急成長していきます。

 

  1. ‘ROUND MIDNIGHT(Hanighen-C.Williams-T.Monk)5:52
  2. AH-LEU-CHA(C.Parker)5:49
  3. ALL OF YOU(C.Porter)6:58
  4. BYE BYE BLACKBIRD(M.Dixon-R.Henderson)7:53
  5. TADD’S DELIGHT(Dameron)4:26
  6. DEAR OLD STOCKHOLM(S.Getz)7:49

レーベル:COLUMBIA
録音:1956年9月10日(1,3)、1955年10月26日(2)、1956年6月5日(4,5,6)

  • Miles Davis:trumpet
  • John Coltrane:Tenor Sax
  • William “Red” Garland:Piano
  • Paul Chambers:Bass
  • “Philly Joe”Jones:drums