これに血がたぎった人は、ジャズだ!

FOUR-MORE - Miles Davis Music

『FOUR & MORE』。ジャズ史に燦然と輝く傑作です。これに血がたぎった人には、ジャズをすすめます。逆に、フォー&モアに「ノレない」という人にジャズはすすめません。徹底的にノリまくり、吹きまくり、弾きまくります。それでいてノリだけでもなく田舎臭くもなく、精緻な構造美を保つマイルス・バンドは孤高の境地にいるといってもいいでしょう。

トニー・ウィリアムスの奇跡的なドラム。芸術的なシンバルワークはフォー&モアのようなアップテンポにおいてもっとも炸裂します。トニー・ウィリアムスのアップテンポのドラムにマイルスの激しいブロウ、ハービー・ハンコックのバッキング、書いているだけで身体が熱くなる興奮のるつぼ、それがフォー&モアです。ちなみに、「テンポの遅い曲ほど難しい」などという音楽通がよくいましたが、フォー&モアを聴いてそういうとしたら、その方とは音楽の話をするのはやめましょう。

1、2曲目といきなり飛ばしまくります。いわゆる「ノリがいい」だけでは、泣けません。これだけ飛ばしながらクールに決めてくれるマイルスだからこそ、泣けるのです。この1、2曲目は凄い。とにかく聴いて欲しい。できれば音量を上げてください。

マイルス・デイビス ミュージックとの接触を経験すると、ある感覚や感性が高感度化します。その結果明確になることのひとつが音楽において言葉の有無がどう影響を及ぼすかということです。なぜマイルスは曲に言葉(歌手)を入れなかったのでしょうか? 後年になって、ラッパーのイージー・モー・ビーと『Doo Bap』という傑作アルバムを残していますが、入れようと思えばもっと早くいつでも入れられたはずです。

言葉は頭で理解してから感情移入します。ソシュールによる言語学用語でいうところの「意味するもの」(シニフィアン)と「意味されるもの」(シニフィエ)があり、それらを論理的に理解してから感情移入という流れです。

しかし、マイルスの音楽は「接触」を経験した人間の感性や脳髄に直接響きます。言葉という媒介を経ることなく、感情や感性が直接襲ってくるのです。すべてのアルバムがそうなのですが、初心者が最初にその感覚を少しでも捉えるなら、『FOUR & MORE』は最適なアルバムの1枚です。そういう意味では、『ユア・アンダー・アレスト』の「ヒューマン・ネイチャー」や「タイム・アフター・タイム」もぜひ聴いてほしい。「ヒューマン・ネイチャー」はマイケル・ジャクソンの名曲ですが、マイルスがやるとシニフィアンが希薄になりより直接感情に響きます。シンディ・ローパーの「タイム・アフター・タイム」も同じです。そこのところの感覚、ぜひ体感して欲しいと思います。

これからジャズを、マイルスを聴こうという人、『FOUR & MORE』はおすすめです。これを聴いて興奮し「かっこいい!」と唸れたら、人生勝ち組です。

  1. SO WHAT(M.Davis)9:09
  2. WALKIN’(R.Carpenter)8:08
  3. JOSHUA / GO-GO(V.Feldman-M.Davis) 11:11
  4. FOUR(M.Davis) 6:18
  5. SEVEN STEPS TO HEAVEN(V.Feldman-M.Davis)7:47
  6. THERE IS NO GREATER LOVE / GO-GO(Theme and Announcement)(M.Symes-I.Jones)11:26

レーベル:COLUMBIA
録音:1964年2月12日、リンカーンセンター、フィルハーモニック・ホール、ニューヨーク

  • Miles Davis:trumpet
  • George Coleman:tenor sax
  • Herbie Hancock:piano
  • Ron Carter:bass
  • Tony Williams:drums