音楽はかっこよくなきゃ

MILES AT FILLMORE - MILES DAVIS MUSIC


解説者によく推薦されるのがDisc2のフライディ・マイルス。解説にもいろいろありますが、これに関しては大正解です。フライディ・マイルスを聴けば、あまりの凄まじいかっこよさに身体中の感性が全開になってクラクラします。

いきなりマイルスのファンファーレ~ソロ、こんな凄いソロあったか!?と思う程。ここでほぼノックアウトされます。フラフラになった我々を察するかのように静寂を挟んでくれますが、これまた逆にドキドキ感が醸成されてしまいます。ドキドキ感マックスになったところで、なんとビッチェズ・ブリュー。何度聴いても完全にやられてしまいます。

ジャズ、ロック、ファンク、ブルース・・・現代音楽の様々な要素をぶち込んで深化したマイルス・デイビス ミュージックのオリジナリティが聴く者の感性を啓発(解放)してくれます。音楽はこうじゃなきゃいけません。感性を限定していく類いのものは好きになれません。

『ビッチェズ・ブリュー』の大ヒットによりロック世代の若い聴衆にとってもカリスマ的存在となっていたマイルスは、「The Church of Rock and Roll」と呼ばれたロックの聖地フィルモア・イーストに乗り込みます。そこで1970年1月17日~20日までの4日間に渡って繰り広げられた凄まじいライブアルバムが本作、『MILES DAVIS AT FILLMORE』です。

過激かつ知的な構成力、身体の芯を揺さぶるリズム、時代を切り裂いていく音楽。自他共に認める「創造的な時期」であった心身充実のマイルスは、1969年の『イン・ア・サイレント・ウエイ』をかわきりに、『ビッチェズ・ブリュー』、『ビッグ・ファン』、『ア・トリビュート・トゥ・ジャック・ジョンソン』、『ブラック・ビューティ』、『ゲット・アップ・ウイズ・イット』、本作、『ライブ・イビル』と傑作アルバムを連発していきます。

夭折の天才アーティスト、あのジミ・ヘンドリックスがマイルスに「いろいろ教えて欲しい」と連絡するほど、マイルスの経験、知識、感性、革新性は音楽界全般に影響力の強いものでした。

ちなみにマイルス自身もジミ・ヘンドリックスをおおいにかっていて、「ジミは、独学の、偉大な天性のミュージシャンだった。」「あんな奴はいない」「彼はオレに影響を与え、オレも彼に影響を与えた。それこそすばらしい音楽が作られる関係なんだ」と語っています。常に新しい音楽を産み出そうとする本当の革新者というのは、新しい才能を喜んで迎え、育てる能力を持っているのだと感心します。

ローラ・ニールやグレートフル・デッドなどを目当てに訪れた観客たちで埋まったフィルモア・イースト。マリファナの煙が立ちこめる異様な雰囲気の中、“前座”としてマイルスが登場します。きっとマイルスをあまり聴いたことのない観客も多かったでしょう。とてつもない音楽をいきなり聴かされた彼らの驚きを想像すると、なにか羨ましくなります。

マイルスは本作におけるライブの前、フィルモア・ウエストにも出演しハイになった5,000人の白人たちの前で演奏します。最初歩いたり喋ったりしていた観客たちは、徐々にマイルスの演奏に圧倒され最後はマイルスいわく「そりゃあ大うけだった。あの晩をきっかけに、その後はサンフランシスコでコンサートをやるとたくさんの若い白人が必ずつめかけるようになった。」そうです。
※こちらの模様は『ブラック・ビューティー』として発売されているものの、キーパーソンであるキース・ジャレットがいないので、まずは本作を先に購入することをすすめます。

本作には、1970年という時代の雰囲気、フィルモア・イーストの濃密な空気が生々しくかつもっともかっこよく詰め込まれています。濃密極まりない空気、殺気、リズム・・・。頭で考えても楽しめません。音楽理論に詳しいとか、楽器が器用に弾けるとか、モダン・ジャズをよく知っているなどよりも、ジミー・ヘンドリックスに血がたぎる系統の人の方がすんなり身体に入ってくるかもしれません。なんだかんだいったって、脳髄からノレなきゃつまんないんです。

フライディ・マイルスを最初に聴いたら、次は最初からいきましょう。“マイルス・デイビス”という司会者のアナウンスとともに始まるわけですが、いきなり70年の煙に充満した濃密な空気が漂い、ジャック・デジョネットのうねり上げるドラミングが密度を上げたところに、キース・ジャレットとチック・コリアの豪華なピアノが独特のトーンを加え、ベースのデイブ・ホランドの太いリズムが厚みを増して行きます。

フライディ・マイルスを最初に聴いて血がたぎった人はこの後もただ聴くだけ。至福の時間が待っています。律儀に1曲目から聴いた方も、出だしでノレなかったら無理することはないかもしれません。他にも音楽はいろいろあります。少しでもノレた人には確実に、すぐ、至福・至高の体験が待っています。

WEDNESDAY MILES

  • 1 DIRECTIONS(J.Zawinul)2:29
  • 2 BITCHES BREW(M.Davis)0:51
  • 3 THE MASK(M.Davis)1:37
  • 4 IT’S ABOUT THAT TIME(M.Davis)8:07
  • 5 BITCHES BREW/THEME(M.Davis)11:00

THURSDAY MILES

  • 6 DIRECTIONS(J.Zawinul)5:35
  • 7 THE MASK(M.Davis)9:50
  • 8 IT’S ABOUT THAT TIME(M.Davis)11:22

FRIDAY MILES

  • 9 IT’S ABOUT THAT TIME(M.Davis)8:59
  • 10 I FALL IN LOVE TOO EASILY(J.Slyne-S.Cahn)2:01
  • 11 SANCTUARY(W.Shoter) 3:43
  • 12 BITCHES BREW/THE THEME(M.Davis)13:10

SATURDAY MILES

  • 13 IT’S ABOUT THAT TIME(M.Davis)3:43
  • 14 I FALL IN LOVE TOO EASILY(J.Slyne-S.Cahn)0:53
  • 15 SANCTUARY(W.Shoter)2:49
  • 16 BITCHES BREW(M.Davis)6:56
  • 17 WILLIE NELSON/THE THEME(M.Davis)7:57

レーベル:COLUMBIA
録音:1970年1月17日、18日、19日、20日、ニューヨーク、フィルモアイースト

  • Miles Davis:trumpet
  • Steve Grossman:soprano sax
  • Chick Corea:electric piano
  • Keith Jarrett:organ
  • Dave Holland:bass
  • Jack Dejohnette:drums
  • Airto Moreira:percussion