恐ろしい程に多様かつ濃密な実り多き作品


LIVE EVIL - MILES DAVIS MUSIC

 



本作発売当時の『ダウンビート』誌ピート・ウェルディングのアルバム評はこんな感じです。
「あれほど見事だった『イン・ア・サイレント・ウェイ』からこれまでのマイルスのアルバム作品の中でも、多くの意味でもっともつまらないアルバムである。~中略~「退屈な部分」の量が尋常ではない」。他にも「以前のセッションの残り物であるぎこちない演奏(かなり緊張感がない)を寄せ集められている」などなどひどいものです。

同時代で聴くとこんなものなのでしょうか? その通りならまず他人におすすめなどできません。

しかし、本作『LIVE EVIL』は断じてまったくの傑作です。それこそ、『イン・ア・サイレント・ウェイ』から『ゲット・アップ・ウィズ・イット』までの様々な要素、そしてその周辺でマイルスが試していたものの片鱗さえ見せてくれるのです。我々聴き手にとって多くの意味でとても実りあるアルバムです。だいたいそもそもマイルスに「つまらないアルバム」などひとつも存在しません!

1970年12月19日に行われたワシントンDCの「セラー・ドア」というクラブでのライブ4曲(1、4、7、8)と1970年の1月~2月に行われたレコーディング(2、3、5、6)をまとめてあります。

ライブの4曲にレコーディングの4曲が挟まれる形で編集されていますが寄せ集めのバラバラ感などとは無縁です。1枚の作品として完璧に構成されています。スタジオ録音の4曲はいずれも2分~5分程の長さであり、様々な手法が試験的な形で演奏されています。試験的だからといって“つまらない”かといえばまったく違います。

どれも長いライブ曲の間に効果的に配置され、1枚のアルバムとして聴いたときにまさにマイルス・デイビス ミュージックとして素晴らしいものに仕上がっているのです。「創造的な時期」と本人が語るこの時期、マイルスがいかに多様な音楽を展開していたのかを改めて感じさせてくれます。

いったいマイルスという人はどこまで見えていたのか、そしてプロデュースし、編集するテオ・マセロという人はいったいどんな頭の構造をしているのか、驚嘆のつきない1枚です。まったく異なる音楽であるライブの4曲とスタジオ録音の4曲をあわせて1枚にすることで、これほど多彩な効果を聴き手に与えるということが想像できる、というその頭脳に感嘆します。

ライブ録音の1曲目、いきなりデイブ・ホランドとジョン・マクラフリンのうねるようにファンキーなベース&ギターの掛け合いから始まり、マイルスが刃物のように鋭いソロをかぶせてきます。出鼻から圧倒的です。火照った心と身体を癒すかのように2曲目は「リトル・チャーチ」の題名どおりの静寂漂う祈りの曲。マイルスのトランペットはほとんど聴こえませんが、これもしっかりマイルス・デイビス ミュージックになっています(やはりマイルスはいつでも凄い)。

続く3曲目もスタジオ録音。マイルスとザビヌルの曲が1つずつメドレーされます。ブルージーな超スローテンポにマイルス、マクラフリンの掛け合いが冴えます。スタジオ録音の4曲は解説ではさらっと流されることが多いのですが、私はとても好きです。スタジオ録音を間に挟むことで、当時のマイルスの創造的多彩を感じるとともに、全体として生のライブの感覚というものが伝わってくるようなのです。

4曲目は一転して軽快なテンポ。デジョネットが軽妙なテンポのドラムでリズムを作り、天才キースがリズミカルなソロを繰り広げます。まるでオルガンではないかのような多彩なソロは、何度聴いてもしびれます。軽快なテンポのままメンバーはどんどんヒートアップ。アルバムクレジットには載ってませんが、12分辺りから笛のソロも入ってきます。すごいライブです! 聴き手もひたすらのめり込んで、一音一音に身体の芯からノってしまいます。

最後は編集によってすこん、といきなり終わり次の5曲目の頭とかぶります。こういうことをされるとうなるしかありません。テオ・マセロというのは本当、凄い人です。5、6曲目はスタジオ録音に戻り、ヴォーカルの入った美しく静寂な曲が時が止まったかのように続きます。

7、8曲目は怒濤のライブ録音2発。特に8は凄まじい。独特のリズムを刻むヘンダーソンのベースにマイルスがワウワウミュートを使いながらソロを繰り広げます。続いてゲイリー・バーツの完璧なトーンと構成美をまとったアルトのソロ。15分過ぎ、マイルスがミュートによる同じフレーズを繰り返しながら徐々に盛り上げます。聴き手だけでなくメンバーもどきどきして盛り上がったことでしょう。

そして、テンションの頂点から一転、静寂の間が入ります。マイルスはこういう間をよく使いますが、これをやられた時のドキドキ感がたまりません。静寂からゆっくりゆっくり全員の音は強くなってゆき、また一度バーツのサックスで冷ましてからナレーションへが入ります。ナレーションがかかり始めたところから演奏の音質が変わります。きっとテオ・マセロの編集なのでしょうが、いったいこの音はなんでしょう!?  まるで鋭く、高く、天に舞い上がっていくようです。度肝を抜かれた瞬間、曲は終わります。

 
  1. SIVAD(M.Davis)15:13
  2. LITTLE CHURCH(H.Pascoal)3:15
  3. MEDLEY:GEMINI(M.Davis)2:57/DOUBLE IMAGE(J.Zawinul)2:57
  4. WHAT I SAY(M.Davis)21:09
  5. NEM UM TALVEZ(M.Davis)4:03
  6. SELIM(M.Davis)2:12
  7. FUNKY TONK(M.Davis)23:26
  8. INAMORATA AND NARRATION BY CONRAD ROBERTS(M.Davis)26:29
〈1〉SIVAD
  • Miles Davis:trumpet
  • Gary Bartz:soprano / alto sax
  • Keith Jarrett:organ,piano
  • John Mclaughlin:guitar
  • Michael Henderson:bass guitar
  • Jack Dejohnnette:drums
  • Arito Moreira:percussion
レーベル:COLUMBIA
録音:1970年12月19日、ワシントンDC、セラー・ドア(ライブ)

〈2〉LITTLE CHURCH
  • Miles Davis:trumpet
  • Steve Grossman:soprano sax
  • Keith Jarrett:organ
  • Chick Corea:piano
  • Herbie Hancock:piano
  • John Mclaughlin:guitar
  • Dave Holland:bass guitar
  • Jack Dejohnnette:drums
  • Arito Moreira:percussion
  • Hermeto Pascoal:piano,drums,whistles,performer
録音:1970年1月4日、ニューヨーク、コロンビアスタジオ

〈3〉MEDLEY:GEMINI/DOUBLE IMAGE
  • Miles Davis:trumpet
  • Wayne Shorter:soprano sax
  • Chick Corea:piano
  • Joe Zawinul:piano
  • John McLaughlin:guitar
  • Dave Holland:bass guitar
  • Billy Cobham:drums
  • Jack Dejohnette:drums
  • Arito Moreira:percussion
  • Khalil Balakrishna:sitar
録音:1970年2月6日、ニューヨーク、コロンビアスタジオ

〈4〉WHAT I SAY
  • Miles Davis:trumpet
  • Gary Bartz:alto sax
  • Keith Jarrett:piano,organ
  • John Mclaughlin:guitar
  • Michael Henderson:bass guitar
  • Jack Dejohnette:drums
  • Arito Moreira:percussion
録音:1970年12月19日、ワシントンDC、セラー・ドア(ライブ)

〈5〉NEM UM TALVEZ
  • Miles Davis:trumpet
  • Steve Grossman:soprano sax
  • Keith Jarrett:organ
  • Herbie Hancock:piano
  • Chick Corea:piano
  • Ron Carter:bass guitar
  • Jack Dejohnette:drums
  • Hermeto Pascoal:vocal,drums
  • Arito Moreira:percussion
録音:1970年1月3日、ワシントンDC、セラー・ドア(ライブ)

〈6〉SELIM
  • Miles Davis:trumpet
  • Steve Grossman:soprano sax
  • Keith Jarrett:organ
  • Herbie Hancock:piano
  • Chick Corea:piano
  • Ron Carter:bass guitar
  • Jack Dejohnette:drums
  • Hermeto Pascoal:vocal,drums
  • Arito Moreira:percussion
録音:1970年1月3日、ニューヨーク、コロンビアスタジオ

〈7〉 FUNKY TONK
  • Miles Davis:trumpet
  • Gary Bartz:soprano / alto sax
  • Keith Jarrett:organ,piano
  • John Mclaughlin:guitar
  • Michael Henderson:bass guitar
  • Jack Dejohnnette:drums
  • Arito Moreira:percussion
録音:1970年12月19日、ワシントンDC、セラー・ドア(ライブ)

〈8〉 INAMORATA AND NARRATION BY CONRAD ROBERTS
  • Miles Davis:trumpet
  • Gary Bartz:soprano / alto sax
  • Keith Jarrett:organ,piano
  • John Mclaughlin:guitar
  • Michael Henderson:bass guitar
  • Jack Dejohnnette:drums
  • Arito Moreira:percussion
録音:1970年12月19日、ワシントンDC、セラー・ドア(ライブ)

Original Recordings Produced by Teo Macero


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