マイルスの力、ブルー・ノートの凄さ


MILES DAVIS マイルス・デイビス

ジャズのアルバムにはよくボーナストラックが収録されたり、再編集されます。ほとんどの場合、折角のアルバムが台無しとなります。例えば『カインド・オブ・ブルー』。奇跡的な時間を収録したジャズ史上最高のアルバムは、オリジナルの曲順、曲数でなければ奇跡の一瞬は味わえません。“+1”などといって別テイクなどを加えられると大変に困る。マイルスではありませんが、ビル・エバンスのベストセラーアルバム『ワルツ・フォー・デビー』にしても、1曲目の「My Foolish Hart」で深い深いエバンスの海に沈み、2曲目の「Waltz For Debby」がこなくてはなりません。もし1曲目が「Waltz For Debby」だったらと考えただけで恐ろしくなります。

しかし、ここで取り上げたブルー・ノートの『MILES DAVIS』はオリジナル版ではなく、全録音が収録されセッションごとに並べられたバージョン。数多の解説にあるように、このアルバムはドラッグ中毒に苦しんでいたマイルスがそこから立ち直る54年まで1年に1度ずつ録音された、歴史的アルバムなのです。だから、オリジナルの曲順、曲数でないこのコンプリートには意味があります。

ニューヨークに出てきた頃には、クリーンで売っていたマイルスでしたが、1949年にパリに行き、ジュリエット・グレコと恋に落ちます。意を決してアメリカに戻るものの失意は大きく、背景には様々な事情があったでしょうけれど、これらがきっかけとなって1950年頃から極度のジャンキーとなり、ろくに仕事もせず薬で頭がいっぱいになってしまいます。

極度の麻薬中毒から抜け出そうと何度も苦悩するマイルス。きちんとした性格だったドイツ系移民、ブルー・ノートのアルフレッド・ライオンは、更生の意志を感じたのか、ジャンキーだったマイルスと1年に1度録音する口約束をします。

録音構成の都合上、1952年、1954年、1953年の順となっていますが、パソコンなどに取り込む方は、ぜひ年代順に並べ直しておくとよいと思います。1953年の録音後にマイルスは麻薬から立ち直りますが、52年、53年の録音も素晴らしい演奏です。ブルー・ノートというジャズ史上最高のレーベルの成せる技なのでしょう。「ブルー・ノート」栄光の1500番台はここから、マイルスから始まります。

ジャンキー時代、仕事がないときにも録音してくれたブルー・ノートへの恩返しからか、麻薬から立ち直りビッグネームとなりコロムビア所属であった1958年には、キャノンボール・アダレイのリーダーアルバムという形で、名盤『SOMETHING ELSE』をブルー・ノートに残しています。よくいわれるようにこのアルバムの音楽的なリーダーはマイルスです。明らかにマイルスの音楽です。

麻薬から抜け出して行くスーパースター前夜のマイルス、その才能と更生を確信した名プロデューサー、アルフレッド・ライオンとの最高のドキュメンタリー、素晴らしい演奏、ジャズの魅力が凝縮されたアルバムです。

ファンキーかつ知的なホレス・シルバー、最高のトーンで聴かせるJ.J.ジョンソン、どっしりと引き締めるアート・ブレイキーら豪華メンバーを従えて、充実した演奏が続きます。個人的には54年録音の「It Never Entered My Mind」が大好きですが、どの曲もいい。60年前のアルバムなのに、聴く度に魅力を増す奥深さがあります。それなのに、聴くまでは「ジャンキー時代だったといわれるからよくない演奏か」と思っていました。実に大きな間違いでした。

コンプリート版には、ブルー・ノートの名カメラマン、フランシス・ウルフのフォトギャラリーが付いているのも嬉しいところ。セッション中の写真が多く納められており、マイルスはじめ、ホレス・シルバーやJ.J.ジョンソンなどの若き日の姿が素晴らしい写真で楽しめます。

 

DISC ONE
  1. Dear Old Stockholm(Vermeland)4:14
  2. Chance It(Alternate Take)(Pettiford)2:55
  3. Chance It(Pettiford)3:04
  4. Donna(Alternate Take)(Mclean)3:12
  5. Donna(Mclean)3:14
  6. Woody’n You(Alternate Take)(Gillespie)3:23
  7. Woody’n You(Gillespie)3:25
  8. Yesterdays(kern-Harbach)3:46
  9. How Deep Is The Ocean(Berlin)4:39
  10. Take Off(Miles Davis)3:41
  11. Lazy Susan(Miles Davis)4:04
  12. The Leap(Miles Davis)4:32
  13. Well You Needn’t(Thelonious Monk)5:24
  14. Weirdo(Miles Davis)4:46
  15. It Never Entered My Mind(Rodgers-Hart)4:03
DISC TWO
  1. Kelo(Alternate Take)(J.J.Johnson)3:28
  2. Kelo(J.J.Johnson)3:19
  3. Enigma(Alternate Take)(J.J.Johnson)3:27
  4. Enigma(J.J.Johnson)3:24
  5. Ray’s Idea(Alternate Take)(Fuller-Brown)3:51
  6. Ray’s Idea(Fuller-Brown)3:45
  7. Tempus Fugit(Bud Powell)3:51
  8. Tempus Fugit(Alternate Take)(Bud Powell)3:58
  9. C.T.A.(Alternate Take)(Jimmy Heath)3:17
  10. C.T.A.(Jimmy Heath)3:34
  11. I Waited For You(W.Fuller)3:29
 

レーベル:BLUE NOTE

DISC ONE
1〜9
録音:1952年5月9日、ニューヨーク、WOR Studios

  • Miles Davis:trumpet
  • J.J.Johnson:trombone
  • Jackie Mclean:alto sax
  • Gil Coggins:piano
  • Oscar Pettiford:bass
  • Kenny Clarke:drums
10〜15
録音:1954年3月6日、ニュージャージー、Van Gelder Studio

  • Miles Davis:trumpet
  • Horace Silver:piano
  • Percy Heath:bass
  • Art Blakey:drums
DISC TWO
録音:1953年4月20日、ニューヨーク、WOR Studios

  • Miles Davis:trumpet
  • J.J.Johnson:trombone
  • Jimmy Heath:tenor sax
  • Gil Coggins:piano
  • Percy Heath:bass
  • Art Blakey:drums

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