どこまでもクールなマイルスバンド
マイルスのクールといえば『クールの誕生』でしょ? これは疑問です。マイルス本人も語っているように、あれは、黒人の本物ビ・バップを白人にも理解できるようにうすめてあげただけのものです。当時の白人たちにはクールだったかもしれませんが、クールな音楽が聞きたければすすめたいのはこれ、『MILES IN BERLIN』です。
『MILES IN BERLIN』は徹頭徹尾クールです。火傷する程に熱い演奏でありながら、熱さに流されることなくどこまでも叡智を駆使した鋭利な刃物のようなマイルスバンドの演奏が全編に渡って繰り広げられています。テナーサックスにウェイン・ショーターが入り、真の60年代黄金のクインテットとなったマイルスバンドがどこまでもクールに飛ばします。
場所はベルリン、フィルハーモニックホール。ニューヨークよりも、パリよりも、そして当然ニュージャージーやケンタッキーよりもベルリンというところがこのクールな演奏をより緊張感みなぎるものにしてくれます。酒を呑んで酔っぱらいながらBGMになんてとても聴けません。酒場でこれがかかっていたら、一瞬にして集中力は耳へと一極化され、ウイスキーの氷は溶けるがままになってしまうでしょう。
60年代黄金のクインテットの中核をなす若干18歳の超天才ドラマー、トニー・ウィリアムスの疾走感が炸裂する1曲目のマイルストーンズがかかった瞬間、マイルスファンは瞬殺されてしまいます。曲のテンポが早いということを遥かに超えた疾走感でつっぱしるハイテンションなマイルストーンズがかっこいいことこの上ないのです。
全編にわたって吹き捲くるマイルスも十二分に聴けます。ここでのマイルスの演奏がまたすごい。ウェイン・ショーターも天才の名に相応しいサックス奏者ですが、まだ入ったばかり。マイルスが繰り広げるブロウの前では見劣りします。しかたないですよね、自分でトランペットを吹くという意味ではもっとも吹き捲くっていた時代のマイルスですから。誰もがかすんでしまいます。とはいえ、ウェイン・ショーターの加入でより豊かになったメロディーラインは美しさを増しています。
2曲目、枯葉のソロ、マイルスに小さい小さい音で吹かれると聴いているこっちの神経はその音に集中していきます。
緩急知り尽くしたマイルスソロの豊かな音楽性には毎度のことながらうなるしかありません。この日、フィルハーモニックホールにいたベルリンの観衆はたまらなかったでしょう。
熱を込め、どこまでハードにドライブしても骨の髄までクールなマイルスバンドを味わうならこの一枚、『マイルス・イン・ベルリン』です。ただし、かっこよさに引き込まれてしまうので聴き終わった後は結構ぐったりです。
- MILESTONES(M.Davis)8:56
- AUTUMN LEAVES(J.Prevert-J.kosma)12:46
- SO WHAT(M.Davis) 10:37
- WALKIN’(R.Carpenter) 10:38
- THEME(M.Davis)1:46
レーベル:COLUMBIA
録音:1964年9月25日、ベルリン、フィルハーモニックホール
- Miles Davis:trumpet
- Wayne Shorter:tenor sax
- Herbie Hancock:piano
- Ron Carter:bass
- Tony Williams:drums