マイルス・デイビス ミュージックへの扉を開く、どうしても聴きたい1枚






ウエイン・ショーターが加入して完成した60年代黄金のマイルスクインテット。興奮のうちに初ライブ『マイルス・イン・ベルリン』、初レコーディング『E.S.P.』と終えたマイルスでしたが、体調を崩してしまいます。その間、プラグドニッケルでの激しいライブを挟んではいるものの、1年半以上ぶりとなるスタジオレコーディングとなったのが『MILES SMILES』です。

ウエイン・ショーターの知的で洗練された才能が、マイルスを始めとするマイルスバンドのこれまた凄まじい才能たちと出会って化学反応を起こしています。そして、それを察知しつつあえてハードに吹き捲くるマイルスという贅沢極まりないアルバムです。

『E.S.P.』ではウエイン・ショーター作曲のクレジットは「W.Shorter-M.Davis」でしたが、本作では「W.Shorter」となっています。実際の作曲過程もあるのでしょうが、初レコーディングの最初のソロをウエイン・ショーターにとらせたことなどを考えると、マイルスはウエイン・ショーターに並々ならぬ敬意を払っていたようです。

マイルスは全て自分の人でしょう。マイルス好きとしては「それでいいのだ。それでこそこれだけの音楽が生み出されたのだ」と全て完全肯定、「マイルス=すべて正しい」となりますが、現場で泣かされてきたミュージシャンもきっといると思います。

“あの”マイルスが認めたウエイン・ショーターはそれほどの音楽家だったのです。『E.S.P.』でもよいのですが、よりわかりやすいウエイン・ショーター作曲による本作の3曲目を聴いてみてください。出だしなどは「デューク・エリントンの領域に!?」と一瞬思ってしまうほど知性に溢れています。50年代はもとより60年代ジョージ・コールマン時代ともまったく異なる、バンドとしての異能異才を感じます。

「ジャズ」という囲いが遠く及ばない領域へと飛翔したマイルス・デイビス ミュージックを感じることができるのです。初めてこの曲を聞いたとき、「ジャズ」という言葉は完全に頭から離れていました。この力はマイルスだけではないでしょう。マイルス+マイルスバンド+ウエイン・ショーターの魔力です。

音楽業界の分類上の「ジャズ」は流通や販売促進のために必要なものですが、我々聴き手は制度の抑圧から離れてマイルスならマイルス、エバンスならエバンスの音楽を聴けばよいのだということを、個人的に実感といいますか、実行できた記念すべきアルバムでした。

これが実はそうとうに難しい。自覚的に音楽を聴くようになってここまで苦節15年。随分乏しい感性と豊富な慣性の持ち主だと自分を嘆いたりしつつ、『E.S.P.』、本作、そして次の『ソーサラー』という一連のアルバムのおかげで、とにもかくにもマイルス・デイビス ミュージックとの出会いを果たし、歓喜し、それまでとは全く違う視界を手に入れたのでした。そしてこれ以後は、古い40、50年代のアルバムも含めてまったく違うものとして、より魅力的に聴こえてくるようになりました。

  1. ORBITS(W.Shorter)4:37
  2. CIRCLE(M.Davis)5:51
  3. FOOTPRINTS(W.Shorter) 9:46
  4. DOLORES(W.Shorter) 6:20
  5. FREEDAM JAZZ DANCE(E.Harris)7:13
  6. GINGER BREAD BOY(J.Heath)7:45
レーベル:COLUMBIA
録音:1966年10月24日(1,2,4,5)、1966年10月25日(3,6)、コロンビアスタジオ、ニューヨーク

  • Miles Davis:trumpet
  • Wayne Shorter:tenor sax
  • Herbie Hancock:piano
  • Ron Carter:bass
  • Tony Williams:drums

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