共鳴する、音楽と書物
マイルス自身が語るマイルス

『MILES The Autobiography』
MILES DAVIS WITH QUINCY TROUPE
1989,Simon & Schuster,New York



1989年にアメリカにおいて刊行され、邦訳もされたマイルスの自叙伝。多数にのぼるマイルスに関する書物のなかでも「必読」とか「これ一冊あればいい」といいたくなる重要な書物です。

洋書では約400頁、邦訳では全2巻約700頁に及ぶもので、マイルスの音楽とその時代にもっとも接近できる書物です。マイルスは1926年に誕生し1991年に生涯を閉じましたから、最後の2年以外における様々な出来事やマイルスの心中が語られています。

幼少期の音楽的原点、チャーリー・パーカーとの接触、頂点へと上り詰めて行く40~50年代、ジャズがメインストリームから外れるとともに、マイルスが凄まじい進化と深化を遂げて行く60、70年代、そして80年代へと続く、マイルスの音楽、時代、人、心が赤裸裸に語られており、マイルスファン、ジャズファンならずとも音楽ファン全体に貴重な体験を与えてくれる本です。

本書もまたマイルスの音楽のように“鳴り”ます。本書とアルバムは共鳴するのです。アルバムを聴けば聴くほど本書は共鳴し、本書を読めば読むほどアルバムもまた共鳴します。

いわゆる40~50年代あたりの「ジャズ」時代が好きな方、60年代以降のマイルスが好きな方、『オン・ザ・コーナー』限定な方、すべてが好きな方とマイルスファンには様々な型があると思います。マイルスの記憶力が驚く程素晴らしいため、すべての時代において出来事は正確かつ豊かに語られますから、どの型のファンも楽しめます。もっといえば、ジャズ界最高の人物ピラミッドが描けるマイルスですから、マイルスが嫌いな「ジャズファン」にとっても重要な書物でしょう。

「どこから読んでも面白い」です。古いのは興味ないという方は後半(邦訳なら2)から読んで、後で前半(邦訳なら1)を読むという読み方もできます。「本当の小説というのは、どこからでも読める」とある批評家が語っていましたが、それならば本書は優れた小説でもあるのかと思ってしまいます。

洋書と邦訳、できれば両方欲しいところです。例によって装丁はダントツで洋書がかっこよく、紙質を上げて写真だけを掲載した頁が30頁も差し込まれています。邦訳は中山康樹氏による訳が完璧以上です(原書の間違いなども正してある)。

英語が本格的に読めなくとも、邦訳に書かれている気に入った部分はマイルスの生に近い英語でも確認したいということもありますから、英語の読める方もそうでない方も両方あるとよいのではないでしょうか。

最後に写真のように邦訳の帯は最悪なものばかりです。「帝王」とか「女」「カネ」「薬」などを多用し、煩いことこのうえなしです。マイルス自叙伝に関しては帯なんて邪魔なだけ。編集の仕事をしていると帯がつく空気やシステムはよくわかりますが、一読者としてマイルス自叙伝を買おうと思ったとき、帯に書かれた小賢しくて浮ついてちゃらちゃらした言葉に反吐がでます。

 

『マイルス・デイビス自叙伝 I & II』
マイルス・デイビス、クインシー・トループ著
中山康樹訳
宝島社



 












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