マイルスとギルのオーケストレイション
無常観に貫かれた稀有な作品


PORGY AND BESS - MILES DAVIS MUSIC


『PORGY AND BESS』はジョージ・ガーシュウィンが1935年に作曲したミュージカル的オペラであり、マイルスは盟友ギル・エバンスとともにこのオペラを題材にアルバムを制作しました。

『PORGY AND BESS』という作品を改めて聴くとマイルスという人の音楽的包容力を感じさせられます。かつこのアルバムはとてもストレートな作品です。ストレートに聴かなくてはよさはわかりません。しかし、このアルバムをストレートに聴くのは意外に難しい。音楽を聴く耳があれば、ジャズについてはビギナーの方がよいかもしれません。(フリーも含め)モダンジャズを聴き込んでいると、様々な言説も頭に入っていますし、「ジャズを知っている」という構えもあり本作が何か「あっけなく」感じてしまうのです。この作品がストレートに聴けたとき、自分の耳が狭隘になってしまっているということに気がつくのです。

さらに、害ともいえる解説の類いが世には溢れいています。ギル・エバンスというユダヤ系カナダ人のジャズピアニスト・アレンジャーがマイルスと組んで作り上げた傑作について述べて、「才能溢れるソリストとジャズのビッグバンドとの見事な融合」などと平気で語るのです。これでは解釈を広げて深く作品を楽しむことの妨げにしかなりません。

本作や『スケッチズ・オブ・スペイン』を聴くとき、ギル・エバンスはいわゆるジャズのビッグバンドをマイルスと融合させているのではありません。ギル・エバンスはマイルスと組んでオーケストラをやっています。ジャズのオーケストレイションです。これはとてつもなく難解で複雑な手法ですが、出来上がった『PORGY AND BESS』や『スケッチズ・オブ・スペイン』は実にストレートかつ有機的に構築された美しさに溢れた作品です。

本作を通して感じるのは、悲しみです。喜びと悲しみの二元論ではなくどうしようもない純粋な悲しみです。ガーシュウィンの名曲「サマータイム」も、マイルスのトランペットとギル・エバンスのあえてシンプルなアレンジにより無情感を超えて無常観さえ感じさせます。どこまでも無常で悲しくありながら、悲しみで悲しみを消すというのでしょうか、優しさに溢れています。悲しみが心を癒したり満たしたりするという点において希有な作品です。

 
  1. THE BUZZARD SONG/禿鷲の歌(D.Heyward-I.Gershwin-G.Gershwin)4:07
  2. BESS ,YOU IS MY WOMAN NOW/ベスよ、お前は俺のもの(D.Heyward-I.Gershwin-G.Gershwin)5:12
  3. GONE/ゴーン(G.Evans)3:38
  4. GONE,GONE,GONE/ゴーン、ゴーン、ゴーン(D.Heyward-I.Gershwin-G.Gershwin)2:04
  5. SUMMERTIME/サマータイム(D.Heyward-I.Gershwin-G.Gershwin)2:04
  6. BESS,OH WHERE’S MY BESS/ベスよ何処に(D.Heyward-I.Gershwin-G.Gershwin)4:29
  7. PRAYER(Oh Doctor Jesus)/祈り(D.Heyward-I.Gershwin-G.Gershwin)4:40
  8. FISHERMEN,STRAWBERRY AND DEVIL CRAB/漁夫と苺と悪魔蟹(D.Heyward-I.Gershwin-G.Gershwin)4:06
  9. MY MAN’S GONE NOW/マイ・マンズ・ゴーン・ナウ(D.Heyward-I.Gershwin-G.Gershwin)6:19
  10. IT AIN’T NECESSARILY SO/ご自由に(D.Heyward-I.Gershwin-G.Gershwin)4:25
  11. HERE COME DE HONEY MAN/ほら、蜂蜜売りだよ(D.Heyward-I.Gershwin-G.Gershwin)1:22
  12. I LOVE YOU,PORGY/愛するポーギー(D.Heyward-I.Gershwin-G.Gershwin)3:40
  13. THERE’S A BOAT THAT’S LEAVING SOON FOR NEW YORK/ニューヨークへボートが(D.Heyward-I.Gershwin-G.Gershwin)3:25
 

レーベル:COLUMBIA
録音:1958年7月22、29、8月4、18日、ニューヨーク、コロンビアスタジオ
 
  • Miles Davis:trumpet,fluegelhorn
  • Gil Evans:arranger,conductor
  • Bernie Glow,Ernie Royal,Louis Mucci,Johnny Coles:trumpet
  • Frank Rehak,Jimmy Cleveland,Joe Bennett:trombone
  • Dick Hixon:bass trombone
  • Willie Ruff,Julius Watkins,Gunther Schuller:fluegelhorn
  • Bill Barber:tuba
  • Julian “Cannonball”Adderley:alto sax
  • Jerome Richardson:flute(1,5,6,7,12,13)
  • Phil Bodner:flute(2,3,4,8,9,10,11)
  • Romeo Penque:flute
  • Danny Bank:bass clarinet
  • Paul Chambers:bass
  • Philly Joe Jones:drums(3,4,9)
  • Jimmy Cobb:drums(omit 3,4,9)

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