一般的に役立つマイルスの名言というより、マイルスを知るための名言といえます。理解ある医師の父親からトランペットを与えられ、よい指導者をあてがわれたマイルスは音楽がすべてとなっていきます。

あまり仲がよくなかった母親とはいえ、デューク・エリントンとアート・テイタムのレコードを買ってくれるとは、マイルスの才能にとって恵まれた環境であったといえるでしょう。

音楽の巨人デューク・エリントン。「A列車で行こう、のビッグバンドの人だね」などと軽く考えていたら大変です。あまりに凄まじいその音楽は恐ろしいまでのものです。マイルスは後年、『ゲット・アップ・ウイズ・イット』のジャケットに“そっと”「For Duke」と記しています。この凄み、この深みにはまったら一生抜け出せないかもしれません。

アート・テイタムもまた、恐ろしい人。1909年生まれの彼は、ほぼ全盲でありながら驚愕の演奏を繰り広げたピアニストです。その活躍はまるで座頭市。ジャズ・ピアノの可能性を限りなく広げたそのテクニック、音楽はあの天才ピアニスト、ウラジミール・ホロヴィッツをして「クラシックの世界でも巨匠となっていただろう」と言わしめました。