マイルスバンド、至高の領域
2曲目の冒頭、レッド・ガーランドがイントロを弾き始めるとマイルスが演奏を止めて「そうじゃない、ブロックコードだ」、ガーランドが「OKわかった。準備いいかい?」。
この会話は録音秘話でも何でもなく、発売されたアルバムにそのまま入っています。最後は、ジョン・コルトレーンの「栓抜きどこ?」で終わるという、タイトル同様のリラックスしたアルバムです。
演奏は素晴らしいものばかり。好きな1枚に上げる人が多いのもわかります。リラックスした演奏とムードを支えているのは、「これしかない」という音色と軽妙洒脱なスイング感を持つガーランドのピアノ。1曲目冒頭、数秒しかない短いイントロでさえそのスイング感に引き込まれます。3曲目の冒頭は、マイルスのスイングするトランペットと相まって、うなるしかありません。
ベースのポール・チェンバースはリラックスした雰囲気の中に心地よいプッシュを加え、マイルスのトランペットは少ない少ない音で情感を豊かに表現します。どのフレーズも文句なくかっこよく、全身がマイルスの音に集中してしまいます。
50年代マイルス黄金のクインテット、最高潮の時です。当時よく出演し、人気バンドとして毎夜満員の客席を前に演奏していた「カフェ・ボヘミア」の気分を、そのままスタジオに持ち込んだマイルスバンドレギューラーメンバー。全員の息はぴたりと合い、全曲ワンテイクの快演。マイルスバンドのレベルの高さがわかるアルバムであると同時に、楽しくてついつい聴きたくなる1枚です。
- IF I WERE A BELL(Frank Loesser)8:15
- YOU’RE MY EVERYTHING (Dixon-Young-Warner)5:18
- I COULD WRITE A BOOK(Rodgers-Hart)5:10
- OLEO(Sonny Rollins)5:52
- IT COULD HAPPEN TO YOU(Burke-Van Heusen)6:37
- WOODY’N YOU(Dizzy Gillespie)5:01
レーベル:PRESTIGE
録音:1956年10月26日、ニュージャージー、ヴァン・ゲルダースタジオ
- Miles Davis:trumpet
- John Coltrane:tenor sax
- Red Garland:piano
- Paul Chambers:bass
- Philly Joe Jones:drums