何もかも消し飛ぶ52秒目マイルス「必殺のキメ」


SOMETHING ELSE


「SOMETHIN’ ELSE」の1曲目「枯葉」の52秒目、いきなりマイルスのキメのメロディーがきます。原曲のメロディーを「ピピピピッ」(楽譜上はたった4つの音)と吹いているだけなのに、他に類を見ない圧倒的なマイルス・デイビス ミュージックのオリジナリティーが聴く者をノックアウトします。何もかもが消し飛んでしまいます。52秒目のキメから2分05秒あたりまでのマイルスのソロを聴いてノックアウトされない人はジャズは向いてない。ジャズなんて広い音楽世界の小さな領域です。自分の感覚にあうものは他にもあるでしょう。

ジャケット右下に小さく「MILES DAVIS PERFORMS BY COURTESY OF COLUMBIA RECORDS」(マイルス・デイビスの演奏はコロンビアの好意による)の文字があります。苦しかったジャンキー時代に交わした「年に一度のペースで録音していこう」というブルー・ノートのアルフレッド・ライオンとの男の約束を果たすため、マイルスは当時契約していたコロンビアを説き伏せたというエピソードがここに表れています。

キャノンボール・アダレイは天性のブルージーな音色で登場しました。マイルスもすぐに気に入っていたようですが、結局諸々の理由でこのアルバムの後、少しの期間マイルスバンドに加入しただけです。マイルスバンドでもっとしっかり修行すれば天性の音色を活かせたでしょう。とても残念です。本作においてはマイルスに気配りしてかなり慎重にはなっていますが、こちらも天性のものだと思われる「あっけらかん」が残っています。

仕事上リーダーについて触れなくてはいけないライナーノーツならまだしも、何の制約もない口コミでさえマイルスとキャノンボールを対比した閉口するコメントが散見されます。キャノンボールは天才的な音色を持った素晴らしいプレイヤーですが、このアルバムでマイルスと対比させて語る耳を疑います。

キャノンボール・アダレイのあっけらかんに比べてハンク・ジョーンズ、サム・ジョーンズ、アート・ブレイキーのお三方はマイルスのキメがすべてだと感じているかのように、律儀な演奏をします。さすが。ハンク・ジョーンズのピアノなどは、あのキメとあわせるにはこれしかないという素晴らしいものです。

どのように解剖してもウルトラ名演「枯葉」がすごすぎる名盤。全曲一緒に捉えると枯葉以外は薄くなりすぎるので、「枯葉を聴こう」と「枯葉以外を聴こう」とふたつの気分にわけるべきです。デジタルプレイヤーなどで聴く方は本当にわけた方がよいと思います。2曲目以降も好演であり決して悪い曲ではないのですが、この「枯葉」の後に続くことのできる曲などあるわけがないというだけです。2つの気分にわけるしかありません。

「モード・ジャズ前夜の貴重なアルバム」云々はここでもドーデモヨイこと。完全無視しましょう。雑音を払ったら、準備完了です。この原稿を読んで買ってみようと思われた方は、52秒目に「世紀のキメ」が来るとわかっています。さあ全神経を集中して再生しましょう。
  1. AUTUMN LEAVES(Prevert-Kosma) 10:57
  2. LOVE FOR SALE(Cole Porter) 7:04
  3. SOMETHIN’ ELSE(Miles Davis) 8:14
  4. ONE FOR DADDY-O(Nat Adderley) 8:25
  5. DANCING IN THE DARK(Schwartz-Dietz) 4:05
  6. ALLISON’S UNCLE(Cannonball Adderley) 5:05
レーベル:BLUE NOTE
録音:1958年3月9日、ニュージャージー、ヴァン・ゲルダースタジオ
  • Miles Davis:trumpet
  • Julian “Cannonball”Adderley:alto sax
  • Hank Jones:piano
  • Sam Jones:bass
  • Art Blakey:drums

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