マイルスの歌と空間に共鳴する

Miles Davis - STEAMIN

「音の数を減らして、空間を持たせる」というマイルスの手法が、楽器において「歌う」と表現される行為が、40~50年代ジャズにあってマイルスによって熟成された姿がこの『STEAMIN’』にあります。

マイルス登場前夜のビ・バップ時代、チャーリー・パーカーやディジー・ガレスピーが演奏していたのは、もっと高速で多数の音を繰り出し、あらゆるところへと飛び交いながら展開される演奏でした。

幼少より音楽教育を受け、ジュリアード音楽院にも学んだマイルスは、ニューヨークのクラブでの濃密な現場体験だけでなく、音楽理論にも精通していました(このインテリジェンスというか、クールさがまたかっこいいのです)。

だからマイルスはやたらとテクニックを披露したり、聴衆を突き放したりする演奏はしません。ひとつひとつの音を、メロディーやフレーズを深く濃く歌い、その音に空間を与えることで聴き手である私たちを招きいれ、共鳴させてくれます。マイルスが気難しいとかパフォーマンスが足りないとかイロイロゴチャゴチャナンダカンダと言う人間が多かったようですが、音楽を聴く限り、マイルスはとても聴き手に優しい懐の深い人です。これこそ本物のパフォーマンスでしょう。

この空間や共鳴を楽しむのが『STEAMIN’』なのです。そのため、コルトレーン抜きのワンホーン曲である3、6曲目が冴えます。歌曲が多いのはマイルスの歌うことへの自信とも受け取れます。リリカルに軽妙洒脱にスイングするレッド・ガーランドのピアノもまた、マイルスが作った空間を潰すことなく心地よくスイングさせてくれます。コルトレーンが入ると若干空間が潰されてしまうのですが、この辺りはお好みというところでしょう。

 

  1. SURREY WITH THE FRINGE ON TOP(Rodgers-Hammerstein)8:59
  2. SALT PEANUTS(Gillespie Clarke)6:04
  3. SOMETHING I DREAMED LAST NIGHT(Yellen-Magidson-Fain)6:10
  4. DIANE(Erno Ropee)7:45
  5. WELL YOU NEEDN’T(Thelonious Monk)6:16
  6. WHEN I FALL IN LOVE(Young-Heyman)4:24

レーベル:PRESTIGE
録音:1956年5月11日、10月26日(5のみ)、ニュージャージー、ヴァン・ゲルダースタジオ

  • Miles Davis:trumpet
  • John Coltrane:tenor sax(3,6以外)
  • Red Garland:piano
  • Paul Chambers:bass
  • Philly Joe Jones:drums