ポップマイルスの代表作。実は最も率直なマイルスの音が聴ける傑作


YOU'RE UNDER ARREST-MILES DAVIS MUSIC


『YOU’RE UNDER URREST』は、1984年(昭和59年)の後半から1985年(昭和60年)の初めにかけて録音が行われ、1985年に発売されました。 売れ行きはとてもよく、マイルスも自叙伝において「売り上げはものすごくて、2、3週間で10万枚以上も売れた」と振り返っています。

70年代後半あたりから、スミスやデペッシュ・モード、コクトー・ツインズなどが小さなレーベルながらも新しい音楽を追求し、その潮流はこの時代世界的なものとなっていました。彼らの曲は、美しいメロディー、技巧的な曲作り、物を見据えた言葉を歌詞としてつくられていました。マイルス・デイビスの自叙伝を読めばわかるように、マイルスもまた、どんなに周りが、聴衆が浮かれていようともいつも知性にあふれたクールな演奏を提供してきました。

そんなマイルスが、1985年の世界が受け入れやすい形でマイルス・デイビス ミュージックを一枚のアルバムにまとめたのが『YOU’RE UNDER URREST』です。“キャッチコピー”とかいう言葉でいえば、ポップマイルスの代表作、ということになります。

アルバムジャケットはマイルスが玩具の鉄砲を持って真剣な眼差しを向けています。真剣な眼差しの基になっているのは深い哀しみです。それがとてもポップな曲調で表現されているというところがよいのです。長いですが、大切ですから自叙伝より引用します。

「「ユア・アンダー・アレスト」のコンセプトは、どこに行っても黒人と警官の間で起きる問題が基になっている。問題が基になっている。たとえばオレがカリフォルニアで運転していると、警官はいつもちょっかいを出してくる。レコーディングしていた頃に乗っていた6万ドルの黄色いフェラーリを黒人が乗りまわしているのが気に入らないんだ。それにオレみたいなのが、マリブの波打ち際の家に住んでいるのも嫌なんだろう。政治的にストリート・シーンの一部として閉じ込められた出来事が、「ユア・アンダー・アレスト」のコンセプトの原点になっている。それだけじゃない。今は核による大虐殺の恐怖にさらされ、精神的にも閉じ込められている。日常生活においてどうしようもないものだが、どこでも起きている汚染とともに大変な問題なんだ。汚染された湖、海、川、土地、樹木、魚、とにかく何から何までだ。連中はその強欲さで、すべてを破壊しているんだ。
オレがいっているのは、それを兵器でやってる白人連中のことだ。奴らは世界中で同じようなことをやっていやがる。オゾン層を破壊して、誰にでも爆弾を落とすと威かし、他人の出来事に口出ししては、勝手に軍隊を送り込む。連中がやり続けてきたのは、誰にでもつけ入ろうとすることだ。恥ずかしく、あさましくやっかいなことでもあるんだ。」

本質を辛辣に表現し、哀しみとともに美しくポップなメロディーにのせる。一流のアーティストたちの成せる技といえますが、そこはマイルス、一音聴けば忘れられないオリジナリティがあります。

騒がしい酒場で相当に酔っていても、連れ合いにどんな煩い話をされても、店内のスピーカーからマイルスのトランペットが聞こえてしまうと、脳髄が全神経がどうしようもなくマイルスの音へ向かってしまうのがマイルスファンの性。

たいていはジャズを流している店、「ジャズだな」と聞いていると「これは誰々だ」、「あ、今度はマイルス」ということが多いのですが、ある日、ジャズをBGMとしていない店でマイルスの『YOU’RE UNDER URREST』の中の一曲、「ヒューマン・ネイチャー」が流れてきました。これまでにないほど全神経はマイルスの音に集中していました。そして、これまでにないほど連れ合いの話は全く聞こえてきませんでした。

「ジャズ」が聞きたかったのではなく、自分はマイルスの音楽を求めているのだと改めて確認させられた一瞬でした。さらには、ポップマイルスの代表作『YOU’RE UNDER URREST』という一作がまたしても傑作であり、実はマイルスの魅力をストレートに伝える名作でもあるということに気付かされたのでした。

本作の発売は1985年(昭和60年)。a-ha、スミス、プリファブ・スプラウト、マドンナ、ティアーズ・フォー・フィアーズ、ワム!、フィル・コリンズ、ジーザス&メリーチェーンなどがヒットを飛ばし、美しいメロディーと凝った演奏のポップミュージックが時代の先端を走っていました。

美しいメロディーと凝った演奏といえばマイルスのオリジナリティーに立ち向かえる人なんてなかなかいません。特に感涙の美しさを誇るのは2曲目の「ヒューマン・ネイチャー」、3曲目の「MD-1〜サムシングス・オン・ユア・マインド〜MD-2」、そして7曲目の「タイム・アフター・タイム」です。

ご存知のとおり、「ヒューマン・ネイチャー」はマイケル・ジャクソン、「タイム・アフター・タイム」はシンディ・ローパーのヒット曲です。このアルバム以降、この2曲はマイルスのコンサートやライブの定番曲となりました。コンサートではかなり編曲していたりしますが、これまたかっこいい、しびれます。You Tubeでも検索すればたくさん出てきますから、ぜひ聴いてみてください。また、4曲目〜6曲目に参加してる名ギタリスト、ジョン・スコフィールドの演奏も聞き所です。そして、本作を持って正式にはコロンビア最後のアルバムとなります。

クレジットにあのスティングが入っているのを気にした方もおられると思います。これは、1曲目の冒頭に入っているフランス語のセリフのみです。スティングがベーシストのダリル・ジョーンズを通じてマイルスのレコーディングへの参加を希望し、マイルスがOKしました。見学だけの予定でしたが、フランス語のセルフ係にスティングが立候補しマイルスはこれを承諾したそうです。ちなみに、後にダリル・ジョーンズはスティングに引き抜かれることになります。

マイルスのバラードといえば往年のファンは皆、「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」といいます。しかし、マイルスの「タイム・アフター・タイム」はマイルスの直球という感じがします。聴かないのはあまりにもったいない、ジャズとかポップとか忘れてぜひ一度聴いていただきたいと思います。

1 ONE PHONE CALL / STREET SCENES(M.Davis)4:34
2 HUMAN NATURE(S.Porcaro-J.Bettis)4:29
3 MD1 / SOMETHING’S ON YOUR MIND / MD2(M.Davis,H.EavesIII,J.Williams,M.Davis) 7:17
4 MS.MORRISINE(M.Tynes Irving,M.Davis,R.Irving III) 4:53
5 KATIA PRELUDE(M.Davis,R.Irving III) 0.42
6 KATIA(M.Davis,R.Irving III) 7:37
7 TIME AFTER TIME(C.Lauper,R.Hyman) 3:38
8 YOU’RE UNDER ARREST(J.Scofield) 6:12
9 JEAN PIERRE / YOU’RE UNDER ARREST / THEN THERE WERE NONE(M.Davis,J.Scofield,R.Irving III,M.Davis) 3:25

レーベル:COLUMBIA
録音:1984年1月26日・9月22日・12月26日・27日 ニューヨーク、レコード・プラント・スタジオ

  • Miles Davis:trumpet(1),voice(1),synthesizer(5,6)
  • Bob Berg:soprano sax(1),tenor sax(8,9)
  • John Scofield:guitar(4-6)
  • John McLaughlin:guitar(4-6)
  • Robert Irving III:synthesizer
  • Darryl Jones:bass
  • Al Foster:drums(1,7-9)
  • Vince Wilburn,Jr.:drums(2-6)
  • Steve Thornton:percussion,voice(1)
  • Sting:voice(1)
  • Marek Olko:voice(1)
  • James Prindiville:hand cuffs(1)
  • Gil Evans:arranger(7)

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